ヤマナカファクターによるヒト繊維芽からの多能性幹細胞誘導

※疑問・まとめなど,あくまで個人からの見解です

概要

題名

Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors

ヤマナカファクターによるヒト繊維芽からの多能性幹細胞誘導

著者

Kazutoshi Takahashi, Koji Tanabe, Mari Ohnuki, Megumi Narita, Tomoko Ichisaka, Kiichiro Tomoda, Shinya Yamanaka

2007

雑誌名

Cell, Volume 131, Issue 5, 2007, Pages 861-872, ISSN 0092-8674,

https://doi.org/10.1016/j.cell.2007.11.019.

(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0092867407014717)

ワード

induced pluripotent cell(iPS), Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc

 

研究の出発点

成人のヒト皮膚線維芽細胞からiPSを作成したい

 ← 4つの転写因子Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Mycによってマウスで成功している

方法

レンチウイルスでレトロウイルスの受容体を導入してから,レトロウイルスで遺伝子導入を行ったことで,導入率を向上

→ 遺伝子の導入・発現

→ 得られたiPS細胞とヒトES細胞の類似性を確認

  ・形態

  ・分裂能

  ・表面のマーカー

  ・遺伝子発現

  ・プロモーター活性

  ・テロメラーゼ活性

  ・インビトロでの分化

  ・奇形腫の形成

知見

ヒトiPS細胞の作成が,マウスと同じ遺伝子の導入によって可能であることを示した

貢献

分化したヒト体細胞のリプログラミング

→ 疾患に特異的な幹細胞の作成が可能

→ 疾患への研究

未解明

4つのファクターが体細胞の多能性を誘導するメカニズム

(Oct3 / 4とSox2が多能性を決定するコア転写因子であることはわかっている)

遺伝子挿入によるiPS細胞癌化のリスク

(レトロウイルスを使わない挿入方法確立の探索)

 

(以下,章ごとにまとめ)

 

遺伝子導入率を向上させるため,同種指向性レトロウイルスの受容体を両種指向性レトロウイルスに遺伝子導入し,遺伝子をより高い確率で導入することができるヒト細胞を得た。

 

同種指向性:マウスやラットの細胞に感染? 本研究において高い遺伝子導入率を示した

両種指向性:ヒトとマウス,どちらの細胞にも感染できる?

 

この方法で4つの転写因子を導入し,

→ 成人HDF(Human dermal fibroblast:ヒト繊維芽)からiPS細胞を形成できた

 

 

さらに,ES細胞で発現している遺伝子の発現を,RT-PCRウェスタンブロッティングによって確認すると

→ ヒトiPS細胞はhES(human embryonic stem cell)マーカーを発現していた

 

 

ES細胞で活性の高い遺伝子の活性(エピジェネティック的な抑制状態?)を確認するため,その遺伝子のプロモーター活性を調べる

・亜硫酸水素塩シーケンス

メチル化のパターンを決定する。DNAのメチル化により,遺伝子の発現は抑制されている。亜硫酸水素処理により,メチル化されていないシトシンはウラシルに変換される。この機構によって,エピジェネティック的に抑制されている遺伝子を調べることができる

・ルシフェラーゼレポーターアッセイ

目的のプロモーターの制御のもと,ルシフェラーゼ酵素を発現させ,その発光量を測定することで,プロモーター活性の解析を行う

クロマチン免疫沈降

DNAとタンパク質との相互作用から,特定のタンパク質が結合するDNA上の部位とその配列を明らかにできる。タンパク質に対する抗体を用いる。今回の場合は,修飾ヒストン抗体でクロマチン免疫沈降を行い,濃縮物を解析する

→ ES細胞特異的な遺伝子のプロモーターはヒトiPS細胞で活性がある

 

 

ES細胞の特徴として見られる,高いテロメラーゼ活性と活発な細胞増殖に関して調べると

→ ヒトiPS細胞の,高いテロメラーゼ活性と,指数関数的な細胞増殖が確認された

 

 

ES細胞を浮遊培養するとボール状の細胞塊になる

2週間ほど培養すると様々な細胞に分化する

:分化多能性を調べる典型的な方法

 

上記の方法でiPS細胞の分化能をインビトロで確認すると

→ ヒトiPS細胞の胚様体を介した分化が確認された

神経細胞や上皮細胞と似た細胞が見られた。免疫細胞染色・RT-PCRによって 外・中・内胚葉それぞれで発現するマーカーが確認された)

 

 

ヒトES細胞と同じ方法で神経への分化を誘導することができるか調べると

→ ヒトiPS細胞は神経細胞へ分化誘導された

 

 

ヒトES細胞と同じ方法で心筋細胞への分化を誘導することができるか調べると

→ ヒトiPS細胞は心筋細胞へ分化誘導された

 

 

iPS細胞の分化能をインビボで確認する

→ ヒトiPS細胞からの奇形腫形成

組織学的検査から,様々な細胞種を含んでいることがわかった

 

さらに生じたiPS細胞がコンタミによるものではないか確認したが

→ ヒトiPS細胞はクロスコンタミネーションではなくHDFから誘導されたものだと示された

 

皮膚線維芽細胞以外からiPS細胞を作ることができるか調べて見ると

→ 他のヒト体細胞からヒトiPS細胞を形成することができた

滑膜線維芽細胞,BJ細胞(新生線維芽細胞から樹立された細胞株)からiPS細胞を形成

 

 

疑問点

・なぜ皮膚繊維芽細胞を用いるのか

調べてもよくわからない

 

・レンチウイルスでレトロウイルスの受容体を導入してから,レトロウイルスで遺伝子導入を行ったことで,導入率を向上させたという部分があった。

 はじめからレンチウイルスを使って遺伝子導入をしないのはなぜか疑問に思った。

レトロウイルスで目的遺伝子を導入するメリット,あるいはレンチウイルスで遺伝子を導入するデメリットは何だろう。

調べてみたらレンチウイルスもレトロウイルスの一つで,違いとしては,レトロウイルスが増殖していない細胞には遺伝子を挿入できない,転写開始点付近に遺伝子導入する傾向があるのに対し,レンチウイルスは細胞分裂をしていないときも遺伝子を挿入でき,転写領域のどの部分にも導入されるらしい。

 遺伝子が破壊されるような事態を防ぐためにレトロウイルスを用いるのかなーと思ったが,レトロウイルス導入によっても,転写領域の異常により,遺伝子発現の異常が結局起こる気がする。よくわからない。

 

・両種指向性/同種指向性とか,使い分ける理由がわからない

英語では amprotropic/ecotropic

amphotropic の方は人間の細胞へも感染→危険 導入率は通常高い?

ecotropicは本来マウス・ラットの細胞にしか感染しない? 受容体を導入することによってヒト細胞へも導入できるようになった?

 

・遺伝子の発現を見れば,遺伝子が抑制されていないことはわかるのではないだろうか。わざわざバイサルファイト法やルシフェラーゼレポーターアッセイ,クロマチン免疫沈降までしているのはなぜか。

予想:エピジェネティック的な状態を見ることで,リプログラミングがなされているか調べるため?

 

・分化多能性を調べる方法として,細胞を浮遊培養させて細胞塊にして,その分化を確認するというものがあった

なぜ勝手に分化するんだろう。しくみは?

 

・導入された遺伝子はどうなるの,発現し続けるの?

→ 読み直したら本文中に答え?あり

レトロウイルスはヒトiPS細胞でサイレンシング

(←レトロウイルス由来の遺伝子がサイレンシングを受けている?)

これらのiPS細胞はリプログラミング状態にあり,その維持にレトロウイルス由来の遺伝子は働いていない

振り返り

だいたい章ごとのタイトルを読めば話の流れがわかる。

基礎的な知識に乏しい状態でも読みやすい。すごい。

再読度

★☆☆☆☆

引用確率

☆☆☆☆☆

関連引用文献チェックの必要性

★★★★☆

社会的にも重要なトピックだから,生物学を勉強している人間としては確認したい。

         

 

 

英単語

例文

意味

基本

granulated

disaggregated

 

 

exponential

some granulated colonies

we mechanically disaggregated them into small clumps

exponential growth

顆粒状の

脱凝集させる

 

 

指数関数的な

基礎生物学

germline

transmission

transduction

 

 

 

 

 

germ layer

teratoma

blastocyst

 

 

 

 

 

dermal

 

We previously reported generation of iPS cells, capable of germline transmission, from mouse somatic cells by transduction of four defined transcription factors.

 

three germ layers

 

when transplanted into blastocysts, mouse iPS cells can give rise to adult chimeras, which are competent for germline transmission

 

 

 

生殖系列

伝達

伝達,形質導入

 

 

 

 

 

胚葉

奇形腫

胚盤胞

の能力がある

 

 

 

 

皮膚の

論文に使えそう

competent for

 

 

 

 

drastically

Deciphering

remain elusive

when transplanted into blastocysts, mouse iPS cells can give rise to adult chimeras, which are competent for germline transmission

 

Deciphering of the mechanism by which the four factors induce pluripotency in somatic cells remains elusive.

能力がある

 

 

 

 

大幅に

解読

はっきりしないまままだ