WHAT IS LIFE? 生命とは何か

※コメント・感想などあくまで個人の意見です

題名

WHAT IS LIFE? 生命とは何か

著者

ポール・ナース (著),竹内 薫 (訳)

2021

出版社

ダイヤモンド社

分野

生命,生物学,入門書

理解のポイント

細胞,区画化,遺伝子,変異,化学反応,多様性,自然淘汰,情報,細胞周期

 

コメント

とりあえず最後の章『生命とは何か?』から読むべし!それが一番わかりやすい!!

『ステップ5 情報としての生命』が最も大切でおもしろい!

他の入門書との違いは,ポール・ナースというノーベル賞受賞者自身の研究がところどころにちりばめられているところ

 

読む前:まえがき・目次・あとがき・パラパラめくってみる

読んだきっかけ

ノーベル生理学賞・医学賞受賞生物学者が書いた書籍という事で興味を持った。また,装丁がとってもきれい。

テーマ

生きている・生命っていったいどういうことなのか

予想

1.細胞 2.遺伝子 3.進化 4.化学 5.情報

の5点から考察していく。

1:生物の構成要素であり,最小単位である,と現時点では言われている。細胞がそもそもなんなのか,何をもってして「細胞」であるのかを説明する?

2:遺伝子が受け継がれていくことで,同じような形質のものが連続的に存在できる。その繰り返されているものを生物と呼ぶならば,いっそ遺伝子こそが生物の本質とも言えるかも。その遺伝子がどのようにして科学者によって発見されたのか?

3:基本的なところが似ているものを生命と呼んでいる。でも,その姿形は様々。それは進化によってできた。進化を突き詰めれば,私たちはどこからきて,どこに向かうのかという,「生命の本質」が見えてくる?

4:生物ならば~である,という中で,生物ならば代謝をする,というのがある。要するに,エネルギーを得ることができる,と言う話。エネルギーを得るには化学反応を起こさなければならない。また,生物は体を作るとき,自分で原子や分子に働きかけて,放っておいたら無秩序が大きくなる世界で,秩序を生み出している。その秩序を生み出す生物としての話?

5:遺伝子の話?情報をどのようにして次につなげるか,情報によって自分をどのように変化させるか,という話?

疑問点

5点にわけてわかりやすくしているんだと思うけれど,『細胞』と『化学』や『情報』って大きなくくりとしては,同列に並べていいんだろうか。『細胞』は生命の構成要素の名前で,『化学』や『情報』は世界のとらえ方・分析方法の1つだと思う。それを5つに分けて同じジャンルの用に扱っているのはどうなんだろう。あくまで話の流れとして5点に分けたのか。

あと,5番目の『情報』と『遺伝子』を別セクションに分けた理由がよくわからない。遺伝子=情報に近いとらえ方を私はしているんだが,どうなんだろう。

 

読み

幹となる主張

◎ 生命は化学的・物理的なものの組み合わせである

◎ 生命の本質はつながっている

テーマへの答え

生命の原理

 1.(自然淘汰を通じて)進化すること

  ← 3つの特性による:生殖・遺伝システム・遺伝システムの変動

 2.境界を持つこと

  ← 細胞:環境からの切り離し,環境とのコミュニケーション

 3.化学的・物理的・情報的な機能により自らの存在を保つこと

  ← 代謝の構築・自らの維持・成長・再生,これらの協調的制御

予想との一致度

だいぶ外れている。それぞれに対して定義的な部分から突き進める,というより,それが見つかった過程をストーリーで説明する。入門書としておもしろいし,わかりやすい形式を取っている。

疑問への答え

話の流れとしてわかりやすいように,5点に分けている。

わかりやすさ,おもしろさに重点を置いた話の進め方をしている。

1.細胞 で生物学の始まりとでもいえるような生命の最小単位に触れる。2.遺伝子 で生物,私たちの共通性を保っているもの,時間的に受け継がれていくものを述べる。3.進化 で,前述した遺伝子の変異の積み重ねと自然淘汰によって,現在の生物やその多様性が生まれる仕組みを説明する。4.化学 では私たちが化学的・物理的に常に変化している,生き生きとした動的なものでありながら,あくまで物理現象から成ることを表現し,5.情報 で生物がどのように情報を処理,まとめ,複雑な総体としてこの世界に存在するか,また,情報,という切り口から,研究者がどのようにして生命を理解してきた・理解することができるかを記述している

 

内容をもうちょっとだけ詳しく

細胞

 

 

 

 

 

→ 外膜を持つ

あらゆる生命体は本質的に似たパーツでできている

細胞は生きている一番単純な物体

「すべての細胞は,生命の完璧な特徴を備えた『命の単位』集まり」

・それ自体が生きている

・その集合体として生きている

 

「外膜」:外と内とを分ける

→ 無秩序へと向かう力への抵抗

 

遺伝子

遺伝子は化学物質:化学・物理的法則にしたがう物質的なもの

 

生命は遺伝子なしに存在できない

遺伝子:成長・機能・繁殖するための遺伝命令を引き継ぐ

 

化学反応

生命の反応:すべてが化学反応による

全てが連携してシステムを構築 → 生命

 

理解可能な程度に単純で,化学的・物理的機構

→ 組み合わさることで複雑な生命に

 

自然淘汰

自然淘汰による進化が起こるための条件

・繁殖能力がある

・遺伝によって生命体の特徴がコピー,受け継がれる

・遺伝情報が変異,それが受け継がれる

さらに 生物の「死」が存在することで自然淘汰が効果的に働く

 

情報

情報がどのようにして空間・時間を通して伝えられるか 受精卵の例

拡散・化学反応など,二つの物質の相互作用による比較的単純な化学規則

 → 自然発生的にパターンが現れる

→ 自己組織化

 

あらゆるスケールで情報処理は行われている

(生態系レベル,種間レベル,種内レベル,個体間レベル,生体内レベルなど)

→ 複雑な情報処理や相互作用の連携や目的を知る

→ あらゆるスケールに適応できる可能性がある

→ 複雑さを理解する糸口

 

◎著者からの提案

現代の多くの生物学者が共有する見解

  : 部品に分解しそれを分類,理解

反応がどのように連携しているのか

  ← データの回収

 

それで発展してきたが……

  → 意味を理解しないままひたすら細部に注目し記録していることに時間をかけすぎている

→ 提案:生命の情報処理の方法を理解することで,知識の蓄積が有益な知恵となる

 

微小な分子レベルの働きを解析するのではなく,それが組み合わさってどのような機能をするかを考えるのが重要

 

まとめ

学び

・複雑性の理解

複雑性というのが今後の大きなテーマになっていると思う。

かつては最小要素に分解することで生命を理解できると考えたが,実際は相互作用からなる複雑なネットワークのなかで生命は存在している。著者が『情報』の章で説明していることは,「複雑系」だとか「カオス」だとか言われる学問分野について触れる形になっているのではないだろうか。

 

・染色体

遺伝子の本体がタンパク質なのかDNAなのか,検証した実験とそのエピソードは耳タコだが,分裂・受精したときの染色体のふるまいの観察はあまり覚えがない。現代の知識から考えたら,当然っちゃ当然だから,気に留めていないまま忘れているんだと思う。しかし,何を意味するか分からない構造と,「遺伝」という現象を結びつけて考えたのが,よく考えてみたらすごいと思う。光学顕微鏡レベルで観察できるくらい大きい構造と,「遺伝」という複雑な現象が結びついているのではって初めに思った人は,すごくわくわくしただろうなぁ。

 

・cdc2

著者がノーベル賞受賞者だとは知っていたが,実際何を研究していた人かよく知らなかった。細胞分裂制御因子であるcdc2を見つけた人だった。なるほど重要な発見だ。

感想

知っている部分は多いものの,それを差し引いても,生物学の入門書として読みやすい部類に入ると思う。分裂制御や酵母の研究に触れられており,著者の研究者としての顔が見えて,楽しい。

疑問点

・生命の原理,3つ目(化学的・物理的・情報的な機能により自らの存在を保つこと)

生命の原理の3つ目がぴんとこない。代謝や生殖,遺伝子の発現制御から見ると,決して間違ってはいないはず。でも,原理の1つとして詰め込むには,内容が多すぎる。生物にとって重要だとわかっている事柄を,むりくりまとめた,と思ってしまった。ここから感じられるのは,『生命』を,わかりやすく『コレが生命だッ』と言語で定義化するのがやはり難しいということだ。個人的には,生命かそうでないかというのは(本書で著者も述べているが)かなりあいまいで,グラデーション的なものになり,万人が納得する科学的線引きは存在しないのではないかとも思っている。

 

・生命の理解の方法

著者が最小単位に分解する理解の方法を正当だと考えつつ,一方で情報の面から世界を理解することを推奨しているのが,少し不思議。情報を意識して世界を理解,と言うと,小さく分解して世界を理解しようとしてきた今までの試みを,否定するような意図がありそうだと感じるからだ。しかし,本書の著者はそういった考えはないらしい。今までの細かなデータに対し,小さな単位の相互作用の結果として,世界を一歩高次な見方をするよう促している。確か,福岡伸一動的平衡では,世界は分解して見えてこない,という見解が示されていた気がする。似ているが,少し主張するところは異なるのかもしれない。だいぶ前に読んだきりでよく覚えていないので,改めて確認してみたい。

 

・遺伝子は生命にとって必ず必要なのだろうか

遺伝子のない生命が存在し得る可能性。

一代で,偶発的に生じて消えるような,生物と似たような反応を示すものがあったとして,それは生命とは呼べないのだろうか。

 

酵素とは何か

高校レベルの知識として,酵素は活性化エネルギーを低下させて反応を促進するものだと思っていた。が,そうだとすると,リン酸化酵素などの役割はどう説明したらいいだろう。ふと思った。リン酸基をつけるのと,活性化エネルギーを低下することはどのように結びつくのか?

予想:構造的要因によって,リン酸基を付加させるためのエネルギーを低下する,プラス,ATPからリン酸基が外れやすくする→熱運動などのエネルギーでATPからリン酸基が移行する みたいな,被リン酸化タンパクとATPで,2重で活性化エネルギー低下が関わる?

総合

★★★★★★☆☆☆☆

再読度

★★★★☆☆☆☆☆☆

関連文献チェックの必要性

生物をどう定義するのか,は,学者・学説によって意見が分かれるところだと思う。おもしろいし重要なところだが,あまり踏み込みすぎるとドツボにはまりそうな気もする。自分に必要な知識や,他の面白そうな知識をさらいつつ,折に触れて,このような根本的なところに戻って来ようと思う。

ただ,主張の違いを確認したいので,以下の本を読み直してみたい

福岡伸一 動的平衡